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単純な官僚バッシング

 「視点 格差社会考/6 役人の給与減らせば…」(毎日新聞)

 ツッコミどころは多々ある記事ですが,1つだけ触れることにします。

 官民給与の単純比較は難しいが、例えば国家公務員の場合、人事院のモデルでは45歳の本省課長(配偶者、子供2人)で年間給与は1232万円余。一方、国税庁調査によると04年、1年間勤務した民間の給与所得者は計4453万人で、平均年齢は43・5歳、平均給与は年間439万円だった。

 よくある,数字を出しておけばそれなりに説得的にみえる,という幻想ですな。高級官僚の給与と民間平均の給与を単純に比較したとして,そこから一体何が分かるんですか?プロ野球選手の打率と高校野球選手の打率を比較して,その選手の実力が比較できますか?

 つまりどういうことかというと,高級官僚の多くは東大卒の超エリート。民間企業に入社する道を選んでいれば,大企業に入っていたはず。給与の比較をするなら,同程度の学歴をもつ大企業の社員の給与と比較しないと全く意味がない。だって,ここであげられている民間給与というのは,平均年齢こそ43歳だけどさまざまな年齢の人の,さまざまな学歴の人の,さまざまな規模の企業の社員の,給与の平均ですよ。給与に影響を与えるさまざまな要因をちゃんと考慮しないと,比較なんてできませんて。

 「単純比較は難しいが」と断ってはいるものの,これは明らかに単純比較の難しさ以前の問題。比較することに全く意味がないんだから。書いた記者の思慮が足りなかったのか,単に官僚批判の記事を書きたかったから,それらしい根拠を示すために数値を無理やり出してきたかの,どちらか。

 天下りの問題は置いておくとして,そもそも公務員の給与というのは,人事院が民間企業の給与を参考にして決めてるんだから,この記事にあるほどの格差は生じないはずなんですがね。

 官僚批判は結構ですが,的を射ない批判をすることで,本当に批判すべきところがその陰に隠れてしまうと思います。誰かもっとまともな批判しろよ。こういうのは学者(ただの評論家除く)の仕事なんでしょうか。
 もう1つ2つだけ。

 地方での風当たりも強い。財務省の04年調査では、東京都を除く全道府県で地方公務員の平均給与がその地域の民間サラリーマンの平均より高かった。官民の格差は全体平均で約14%。3割近く地方公務員が上回る県もあった。地方では役所は超優良就職先である。

 そりゃそうだ。都市部ならともかく,地方は大企業が少ないから,必然的に民間給与の平均も下がる。地方出身で優秀な学生は,故郷に帰って就職したい場合には大抵役所勤めを選びますよ。ここでも給与に影響を与える要因が無視されてますな。


 「給与が安いと優秀な人がこない」という声もあるが、カネが目当ての役人などは無論、要らない。

 うわー,ものすごい規範論。カネが目当てとかいう以前に,四六時中働き詰めなのに給料がめちゃめちゃ安かったら,ほとんどの人間はやる気出ないでしょ?存在しない,自分の中にある理想的官僚像をもとに議論をして,それが現実的に何の意味があるの?
書いた人 うきょー | comments(4) | trackbacks(0) |




コメント

人事院勧告の本来の趣旨とか、 棒給表作成の不透明さを突かないといけないのよね、公務員給与の問題っていうのは。
民間に準ずる水準にするのが人事院勧告の趣旨なんだから、どういう基準で民間に準ずるとみなしているのか、を議論しないといけない。
「差がでるはずがない」といううきょーの意見だが、実際は年収ベースでみるとかなりの格差があるのは事実だわ。
という研究を、ゼミ内の他の班がしてました。

まちこ | 2006/03/29 3:50 PM

その報告を聞いてないから何ともいえないけど,「公務員」をどれだけ分類したかに興味があるな。普通の人による公務員の給与批判って,キャリア官僚から市役所の窓口まで一緒にされて論じられるのよね。学術的にまともな分析ならそこまではないだろうけど。

公務員を分類せずに給与格差を論じたとしても,それは「公務員と民間」の格差ではなく,学歴やその他の要素による格差である可能性も否定できないのではないかと。

つまり,
1.公務員を分類する。
2.その分類に属する公務員と同等(学歴など)とみられる民間企業の社員を特定し,その企業の給与水準を明らかにする。
3.1の公務員と2の民間社員の給与を比較する。
という手順を踏んで,それでもなお公務員のほうが高ければ,「公務員と民間では格差がある」と納得するけどね。

と,こんなことを書きながら考えると,キャリア官僚レベルでは公務員のほうが安いという逆の格差がみられるものの,上級でない地方公務員レベルでは格差があるんじゃないかという仮説が生まれたな。誰かまともな行政学者か経済学者がこういう研究やってるんじゃないかと。
うきょー | 2006/03/30 12:49 AM

なるほどね。
「公務員」vs「民間人」という二項対立では確かになにも生まれないな。
公務員に対応する民間人をどう想定するか、という点に関しては人事院はオカシナ基準を作ってた気がするわ。
また論文データもらって調べとく。
まちこ | 2006/03/30 2:35 AM

 人道主義という思想が発達しすぎたために最も単純にして確実、そして早急な解決手段が損なわれてしまった。ユリウス・カエサルであれば、腐敗した官僚など即断で粛清し、数年にして黄金時代を築いたであろうに。 方々、マキャベリの「君主論」を熟読することをお勧めする。

ギボン | 2008/11/01 1:36 AM


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